大粒、皮ごと、種なし、とにかく甘い
エメラルドグリーンの甘い一粒。
秋の味覚を代表する果物といえばブドウ。その中でも、皮ごと食べられて、種なし、大粒でとにかく甘いと人気の「シャインマスカット」。サクッとかんだ瞬間、口いっぱいに爽やかな甘さがはじけます。収穫時期を迎えた「梶田ぶどう園」を訪ねました。
秋のある朝、長い行列ができる
9月中旬、上下町にある事務所の1階に長い行列ができる。お目当てはシャインマスカット。午前9時に販売を始めると、昼には売り切れてしまう。一度美味しさを知った人たちが、あの味が忘れられないと翌年もやってくる。知る人ぞ知るブドウとしてリピーターを増やしてきた。
「うちのシャインマスカットがまだデラウエアくらいの小さな粒のころから、応援し続けてくださる方もいます」と話すのは、「梶田建設」の5代目社長の梶田峰生さん。建設業を営みながら、公共事業の減少で事業のもう一つの柱にと、2009年の春からブドウ栽培を始めた。
ブドウ栽培は未経験。新事業のヒントを求めて長野を訪れた際に、シャインマスカットと偶然に出合った。翌年から苗木の販売が始まるタイミングで、まだ認知されていない新しい品種だった。広島県東広島市安芸津町にある果樹研究所でそのブドウを味わったところ、甘さに驚いた。「上下町周辺にある世羅町や三次市はすでにピオーネの産地。同じブドウでは勝負できない。せっかくなら珍しいものを作ろう」とシャインマスカットを選んだ。
1年目は大失敗、試行錯誤の連続
1年目は芽が出なかった。苗木が枯れてしまったのだ。事業のもう一つの柱どころか大失敗。ただ、ブドウの栽培方法が味方してくれた。ブドウは台木に接ぎ木して育てる。台木は枯れていなかったため、専門家のアドバイスを受けながら自分で接ぎ木し、枝を復活させた。その翌年には少し実をつけたものの、イメージしていた大粒には程遠い小粒。試行錯誤が続いた。ブドウに負荷を掛けないように生長や収穫量を制限しながら、少しずつ大きくし収穫量を増やしてきた。
現在は23アールの敷地にブドウの木を220本、1本から約50房を収穫する。育てる品種は、全体の9割がシャインマスカット。そのほか、藤稔、安芸クイーン、高妻、クインニーナ、ピオーネも栽培する。
一つの実、一粒に甘さを凝縮させるために
大粒、皮ごと、種なし、高糖度のシャインマスカット。その糖度は20度を超える。肉質は硬く、サクッとした触感が楽しい。崩壊性がいいと表現するそうだ。日持ちもいい。秋に収穫したブドウを冷蔵庫で正月まで持たせることができるほどだ。クリスマスケーキに、シャインマスカットを見かけるのもそのためだ。
美味しさの理由は「根域制限栽培」。箱の中で育てることで根の成長する範囲を限定し、土壌の水分、肥料の量を的確にコントールする。これによって品質のいい糖度の高いブドウを安定して提供できる。
ブドウの中でも「シャインは暴れる」と言われるほど手がかかるため目が離せない。栽培シーズンは4月から10月まで。成長させながら芽や枝の生長を制限し、余分な花は切り落とす。1本の枝に24枚の葉で1房のブドウを育てる。6月中旬になると種なし処理を行い、粒を大きくするために弱い枝の房や、房の形を整えながら粒を落とす。大きくしすぎると水っぽい味になってしまうためだ。1房500~600gを目指す。
ブドウを袋で覆い、虫や病気、強い日差しからブドウを守り、水分を絞りながら一つの房、その一粒の甘さをさらに凝縮させていく。そうして9月中旬ごろ、やっと収穫となる。12月には翌年の準備が始まる。
来年も出合いたい、甘い一粒
広島市内でブドウを販売する機会を得た。多くの人が足を止めて爽やかな甘味に驚き、次々と売れていった。「おいしいものをつくっていれば、評価していただけると実感できた。自信になりました」。梶田さんの新たな原動力となった。ブドウ畑を広げたい、ハウス栽培もしてみたい、よりいいブドウを作って、贈答品にも使っていただきたいなど、挑戦したいことが次々と浮かぶ。
栽培も安定し、シャインマスカット人気の後押しもあって、利益も上がるようになった。しかし自然が相手。長梅雨、高すぎる気温、台風など、気象によってその年の出来は大きく左右される。「農業は時間もかかるし、思い通りにはいきません。だからこそおもしろい。こんな美味しいブドウは食べたことがない!と言っていただけるように頑張ります」と梶田さんは目を輝かせる。
冷蔵庫で冷やしておいた梶田さんのシャインマスカットを、さっと水洗いしてお皿の上に。パクパクサクサクと手が止まらず、あっという間に完食。来年も楽しむために予約をしておこう。
1年後、また甘い一粒に出合えますように。