上下で、上下の人と
暮らしのフレームをつくっていく
古くからものづくりと書道文化が盛んな上下町で、額ぶちや屏風、茶道具などの製造会社として1983年に創業した伝統工芸株式会社(DENTOデントー)。唯一無二のものづくりを求めて、額ぶちから家具へ、家具から再び額ぶちへと新たな道を歩き始めました。朝もやけむる山間の工場で、上下の人の手で新しい伝統がつくられています。
無色透明だけど確かにそこにある
デントーのフレームは、ナチュラルでシンプル。壁に対して垂直に設置できる設計も特徴的だ。空間の中で違和感を発することなくそこにある。
これらのフレームはすべて人の手でつくられている。工場をみわたすと、デジタル表示はあってもコンピューターはない。人の目で木目の方向や木の反り、色をみて、最終的な木目の出方をイメージしながら形にしていく。額ぶちの角は、端を45度にカットした木材が隙間なくぴたりと組まれていて気持ちがいい。研磨の工程では、表面をペーパーで磨いてはオイルを塗り、見えてきた毛羽立ちをさらに細かい目のペーパーで磨く。この工程を何度も繰り返し、指先に邪魔するものがなくなったら完成する。
「無色透明だけど確かにある。主役ではないけれど、主役と肩を並べる名わき役。作品の邪魔も空間の邪魔をしない。家具と並べても違いがないものを意識した」と代表取締役社長の服巻年彦さん。作品を入れて飾るための額ぶちに、インテリアとしての魅力も加えた。フォトグラファーやアーティストからのオーダーが増えている。
デントーといえば、家具を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。同社は2012年、額ぶちづくりに加えて、家具づくりをスタートさせた。ラインナップは、額ぶちづくりの機械をそのまま使った、スツールやチェア、テーブルなどの小ぶりな家具。スツールやダイニングテーブルの脚部には、額ぶちの「留め」という技術を使っている。場所をとらないようにスタッキングできるなど、暮らしの中に溶け込む工夫もされている。お客様の声を聞きながら、家具のアイテムを順調に増やしてきた。
家具屋になりたかったけど、やっぱり額ぶち屋
オリジナルブランドの家具を全国の家具・インテリアショップに卸すようになり、海外にも卸し先ができた。デントーの家具が広まっていく中で、ふとある気づきが生まれた。「確かにデントーの家具を選んでくださるお客様がいる。でも、数百ある中で僕らの家具を選んでいただく確率はどのくらいだろうか。いい家具をつくるメーカーは、府中にも広島にも全国にもたくさんある。いい家具の中でのオリジナリティーが薄いのではないか、そんなことを悩み始めたんです」とスタッフの一人である取締役の安田剛さんは胸の内を打ち明けてくれた。
OEMのクライアントは、額ぶちづくりをメインとした機械や技術を見てとても喜んだ。家具工場はいくつも見たことがあるけど、額ぶちづくりは初めてだと面白がってくれた。「デントーさんの家具を置くと、空気が柔らかくなる。額ぶち屋さんだからなんですね、と言われてハッとしたんです。僕たちは額ぶち屋から家具屋になりたかったけど、やっぱり額ぶち屋なんじゃないかって。もう一度、僕たちが何を作っているのかを整理することにしました」。そしてたどり着いたのが、「フレームをつくってる、家具もつくってる」という新たな在り方だ。
地域とともに進むことで見えてきたことがある
家具から額ぶちへと再び方向を変えようと動き始めたのと同じころ、オープンファクトリーの動きが全国的に広まっていた。ものづくり企業数社が合同で一般の人を対象に工場見学を実施するもので、地域と一体となって進める取り組みだ。2019年、地域社会の発展を目的に活動するNPO法人府中ノアンテナとともに、府中の企業3社とオープンファクトリーイベントを実施した。もともとOEMの企業に対しても工場を見てもらって受けるスタイルだったが、これを機に一般の人にもデントーのものづくりを身近に感じてもらう機会を増やしていった。毎年秋に「木になる生活展」を実施している。木製家具、クラフト雑貨、フード&ドリンクの販売やワークショップを行うイベントだ。
「僕たちのものづくりを実際に見てもらうことで、どこでどんな人たちがどんな思い何でつくっているかを知ってもらい、僕らのユニークさをわかってもらえる。もともと高すぎない安すぎない価格設定を意識しているけど、来てくれた人はこれなら安いと評価してくれた」と嬉しそうに話す安田さん。リクルートの効果も出てきている。上下で暮らす人、移住してきた人が働き、スタッフの半分は女性だ。
オープンファクトリーの動きが経済産業省の目にとまり、2025年大阪・関西万博「Co-Design Challenge 2024」の選定事業者に選ばれた。同社のスツールが万博のパビリオンでオフィシャルな什器として使われ、同社の工場見学を含む上下町の文化を体感するツアーが万博のオフィシャルサイトで優先的にプロモーションされる。デントーのものづくりと上下の文化を世界に発信するチャンスを得た。
上下町で新しい伝統をつくる
工場でフレームと家具を見せてもらった。シンプルで無駄のない輪郭、そこにある理由をちゃんと持っている違和感のなさ。「お茶道具のようですね」と口にすると、「そうなんです。実は、うちには茶道具をつくっていた歴史もあって。忘れられないDNAがそうさせるのかも」と安田さん。「そうするのが当たり前、それしかできない」と服巻さん。デントーがつくっているものに触れながら、「だからそういうことなんだ」と腑に落ちる気持ちの良い物語を聞かせてもらった。
「新たなブランドをつくることで、上下の文化を改めて知ることができた。オープンファクトリーでは、過疎化が進む中山間地域でものづくり生き残っていくかを改めて考える機会にもなった」と安田さんは話す。
フレームをつくっているデントーは、家具もつくってる。それは上下で生まれた育った人や移住してきた人など、上下で暮らす人の手がつくっている。その手は、暮らしの新しいフレームをつくっている。
あなたのフレームを見つけに、いつかぜひ上下町へ。