グラスに注がれる、オーナーの遊び心
好きなことを堂々と楽しむバー

BarSR-Union (バー エスアールユニオン)

地元の人や出張者、家族連れなど様々な人々が集う「Bar SR-Union(バー エスアールユニオン)」。オーナーの豊高隆幸さんの「やりたいことをする、迷ったら楽しい方へ」という生き方に共感する人々が集います。今夜、あなたも自分だけの楽しみ方を見つけに、この扉を開けてみませんか。


思わず「懐かしい」とこぼれる、好きなものを集めた空間

ドアを開けて、もう一枚の扉を引くとビートルズの音楽が流れてきた。壁やモニターにサッカーの試合の映像が流れている。どっしりとしたバーカウンターにテーブル席。振り返るとギターが並び、サッカーチームのユニフォームがディスプレイされている。合間に映画のポスターや『AKIRA』の漫画。思わず「懐かしい!」と口に出してしまう人も多いはずだ。

ここは「Bar SR-Union」。豊高さんに店名の由来を聞くと、Sはスポーツ、Rはロック。本当はミュージックのMを使って「SM」にしようと考えたが、違う意味も想像されるためロックのRを採用したとのこと。ユニオンは連合など複数のものが一つにまとまること。店名が語る意味の通り、このバーには飲める人も飲めない人も、豊高さんと同年代の人、80代の人も、家族連れも、様々な人が集まる。

築100年の梁と深みを増す足場板の床。過ぎた年月を物語る空間

スポーツの中でもサッカーが好きというのは、店内に飾られたユニフォームを見ると分かる。上下町では2社しかない、サンフレッチェPRサポートショップの一つだ。ワールドカップ開催時には、朝5時から店を開けてみんなと応援しても盛り上がった。サッカー以外でも、カープの試合があれば流している。
店内でライブもする。プロがやってきて演奏することもあるし、豊高さん自身もバンドを組んでいるので演奏することもある。1975年生まれの豊高さんが高校生のころ、世の中はバンドブーム。みんながギターを弾いていた時代に、ブームにのってギターを手にした。立てかけられているギターは、誰かにひいてもらうのを待っているかのようだ。

ソファを移動させるとここがステージになる

祖父母の写真館を再生、思い出が随所に

バーを始めたのは2007年、豊高さんが32歳のとき。「上下町に居酒屋はあるけど、二次会はスナック。バーが少なくて、好きなスポーツと音楽を楽しめる店があるといいなと思ったんです」。
この場所は、豊高さんが3歳から暮らしてきた祖父母の家で、もともとは写真館だったそうだ。祖父母が若いころに建てた家は築100年、見上げると天井の梁や2階にあった豆こたつの跡が残っている。
両親と離れて祖父母との家で育った豊高さんをかわいがってくれたのが、「お兄ちゃん」と呼ぶ母親の弟にあたる人。お兄ちゃんの車に乗るといつもビートルズが流れていた。「音楽が好きなのも、その人の影響があるんです」。
そのお兄ちゃんが、豊高さんがサラリーマン時代に病気で入院し、50代半ばで亡くなった。豊高さんは結婚して家を出ていたため、このままでは家に住む人がいなくなり取り壊すことになってしまう。「この家を残したいと思いました。そして、お兄ちゃんの死をきっかけに、人生いつ何が起こるか分からない。やりたいことをやっておこうという気持ちが生れました」。
ちょうど職場の環境にも変化があり、転職するにはよいタイミングだった。やりたいことをとしてバーを始めることにしたものの、飲食の経験は全くなかった。バーテンダーの専門学校に通ってお酒のことを勉強した。経験もない新しいことを始めることに不安は無かっただろうか。「わけのわからない自信や勢いがあったんです。周りの友達も転職が多くて」と振り返る。

落ち着いて店内をよく見ると、カウンターに古いカメラ、店の入り口を見上げるとお兄ちゃんが集めたビートルズのレコードがある。祖父母、お兄ちゃんへの思い出が店内のあちこちにある。お兄ちゃんの命日にはビートルズを流す。

写真館だったころに使われていた古いカメラ

お兄ちゃんが残したレコードたち

毎月限定のオリジナルカクテル、今夜の気分で選べる一杯

多くの人が楽しみにするのが、毎月限定のカクテル。取材した9月は、3種類のユニークなカクテルに出会った。コーヒー豆を1週間漬け込んだ芳醇な香りの「コーヒー焼酎」、麦焼酎「いいちこ」に麦チョコを浮かべた遊び心あふれるショートカクテル「いいちょこ」、そして、暑さが残る日にぴったりの「ソルティライチカクテル」。
豊高さんに月に3つのカクテルを考えるのは大変では?楽しい?と聞くと「しんどいです」と笑いながらも、「楽しみにしてくれている方がいるので。あの時飲んだのがまた飲みたいと言われることもあってうれしいですね」と語る。
カクテルは約60種類もあり、ビール、ウイスキー、焼酎もある。飲めない人飲まない人向けに、ノンアルコールのカクテルも充実させている。ノーチャージでカクテル500円~、ソフトドリンク500円~。フードはお酒のおつまみとして、ナッツやスナック等の乾きもの、枝豆、チーズ、ソーセージ、ナンピザなどを用意する。

体をしっかりと預けられるカウンターは、乗り出して豊高さんとの会話を楽しむのも、一人で静かに過ごすにもいい。ときには、モニターに映し出されるスポーツ観戦で、その日に偶然一緒になったお客さんと一体になって盛り上がるのも楽しい。テーブル席があるのでグループや家族でも利用できる。気分や目的に合わせて、様々な楽しみ方ができる。

(左)「いいちょこ」時間が経つにつれて麦チョコが少しずつ溶けて、飲むたびに味わいが変化。(右)「ソルティライチカクテル」ライチのフルーティーな香りと甘みを塩味が引き立てる一杯。

大人の「好き」を堂々と楽しむ

カウンターでは、地元の人や仕事で来た出張者、家族連れなど、さまざまな人がグラスを傾ける。同級生の子どもが成長し、「お酒が飲めるようになったよ」と訪れることもあるそうだ。「長年やっていると、こんな再会もあるんだなぁと嬉しくなります」と豊高さん。お店を手伝ってくれていた女性とお客様が結婚するなど、「出会いが生まれ、繋がりができていく」ことも喜んでいる。

気に入ったレコードのジャケットを見つけたら店に飾る。好きな漫画を置き、面白い漫画に出会えば入れ替える。「好きなこと、楽しいことしかしない」という豊高さんのこだわりが、不思議と心地よい懐かしさを生み出している。「わがままにやってきました。好きなこと、楽しいことしかしないと決めています。大人の子供部屋のような場所なんですよ」と語った時、まさにこの店の本質だと感じた。

今夜、どんな音楽が流れ、どんなカクテルに出会えるだろうか。週末は豊高さんもお酒を解禁するとのこと。話も盛り上がりそうだ。ここは、誰もが自分なりの楽しみ方を見つけられる場所。大人になった今だからこそ、心から好きなものを堂々と楽しみに、バー エスアールユニオンへ。