お弁当も笑顔もほかほか、我が家のキッチンへようこそ!

HOME kitchen

白壁や格子窓が美しい上下町商店街。歴史ロマンあふれる落ち着いた町並みに、新しい風を吹き込んだお店があります。お総菜店「ホームキッチン」では、「家のキッチンのように」との思いを込めた手作り料理と、元気になれる笑顔に出会えます。


まるでお母さんのように手作りで。

 オーナーの大畑乃愛さんの1日は忙しい。保育園児から小学生までの3児を育てるママで、一番下のお子さんを保育園に送りとどけて店に向かい、料理の仕込みを始める。
毎日、3パターンの日替わり弁当を用意する。一つのお弁当の中で味付けが重ならないように、焼き物、炒め物、煮物とすべての料理工程を駆使し、味付けにも醤油、みそ、トマト系、酢、マヨネーズなどバリエーションを持たせる。単品の総菜も含めると1日で30品ほど作るが、「レシピは特にないんです」と言う。家庭で料理を作るように、冷蔵庫をのぞいて、今日の材料を並べて、「何にしようかな~」と考え、実のお母さんと一緒に作り始める。
午前11時ごろにはお弁当が出そろい、お総菜や揚げ物が次々に並んでいく。「すぐになくなるから」とお客様がやってくる。正午前後には売り切れてしまうことが多い。「単品のお総菜を組み合わせて、詰め合わせたりすることもあります」。まるで“お母さん”のように、今日のお昼ご飯を心配してくれる。

その日の料理を詰めたお弁当は3種類、お総菜は単品だけでなくおかずセットも好評。

「いつかは…」の夢を1年半で実現

 栄養士の資格を持つ乃愛さんは、老人ホームや保険の営業、保育所での給食員を務めていた。「いつかは自分で飲食店をしたい」という夢を持ち、上下町のイベントでは飲食で出店もしていた。
「いつか、第二の人生くらいで」と考えていた夢が、「今しかない!」と突如動き出したのは、友人が起業するという話がきかっけ。同じタイミングで、上下町商店街通りの一等地が格安で売りに出された。広すぎる土地、建物は元スナックでミラーボールも残されている半壊状態。でも、「飲食店をするなら商店街でしたいと決めていたので、とりあえず買っとこう!って。まずは物件からなんです」と豪快に笑う。
ある時、スーパーにお総菜を買いにいった乃愛さんは、「やっぱり家で作ろう」と何も買わずに帰ってしまったことがあった。「茶色のお総菜ばかりで、家族に食べさせたいものがなかったんです。同じような思いを持っている人は多いんじゃないかな」。そうしてお総菜店をすることに決めた。
それからは、昼間は各種手続きや資格取得の時間にあて、深夜は資金づくりのためにコンビニエンスストアでアルバイト。朝に自宅に戻って子供たちを送り出し、2、3時間の睡眠。2年間かかるといわれたパン講師の資格は半年で取得した。
物件を購入して1年半後の2016年についにオープン。「自分ちの台所のように、お母さんが作ったごはんがある場所に」という思いで、「ホームキッチン」と名付けた。

日替わりのお弁当には、メインと副菜を2種類。栄養だけでなく見た目にも配慮してカラフルに。

地元の人、友人、お客さんが営業マン

イートンインスペースを利用するときには、お茶もサービス。

 店内は白と明るい木目をベースに、黒をアクセントにしたまるでカフェのようなオシャレな空間。弁当やお総菜が並ぶ横には、コンクリートの壁に窓。海外の知らない町に迷い込んだかのような楽しさがある。奥ではお弁当にほかほかのご飯をよそったり、料理を温めなおす。「つい温めますかって聞いちゃう。コンビニで働いていた癖ですね」と笑顔が弾ける。
棚やテーブルは手作り。鉄工所を営む知り合いにテーブルの足組を作ってもらい、大工である義理のお父さんにも協力してもらいながら仕上げた。上下町出身の乃愛さんを、同級生やバンド仲間、高校生のころにバイトをしていた商店街にある画廊の店主をはじめ商店街の皆さん、荷物を届けてくれる宅配便のドライバーなど、たくさんの人が応援する。「乃愛ちゃん、頑張りんさいよ」「みんなに言うとくな~」。一度来てくれたお客様までも「友達にも買っていきます」と、出会う一人一人が営業マンを買って出てくれる。「母ちゃんの料理は美味しいよ」と小学校で自慢してくれるお子さんは乃愛さんのパワーの源だ。

しっとりした街並みになじみながらも、新しさを感じさせる外観。

手作り料理に笑顔を添えて

 ある日、初めてのお客様からオードブルの注文が入った。後日、「みんなに、このオードブルいいねと褒められました」と電話があった。「本当にうれしかったですね。手づくり料理はやっぱり違うねと言っていただけるように、これからも頑張りたい」。
「ケータリングがしたい」「テーブルコーディネートもしたいなぁ」と夢は尽きない。月1回のパンを毎日出すことも目標だ。このたくさんの夢は、実は不安の裏返しでもある。「何かしていないと、喜んでくださっているかな、ここに来て楽しんでくださっているかなと不安になります。それなら、何かやろう!って新しいことを始めちゃう。不安は私の原動力になっています」。
パンの日を狙ってくるお客様も増えてきた。「せっかく上下に来てくださるのだから、上下のよさをもっと知ってもらいたい。そして、人が温かいことを感じてほしい」と、手作りの料理に笑顔を添えて手渡している。

広い店内ではお菓子や小物の委託販売、店頭の駐車場でイベントも開催する。