家づくりは町づくり。魅力を発掘して奇跡を起こしたい。

株式会社 中田建設

上下町商店街に事務所を構える「中田建設」。吹き抜けの天井に古い欄間が吊るされています。歴史的建造物で見られるような豪華な彫刻を施したものではなく、凹凸は少なく見た目はとてもシンプル。「高度な技術が使われているわけではないけれど、和モダンの空間に似合っているし残しておきたいと思って」と楽しそうに見上げる社長の中田洋志さん。よく話を聞いてみると、欄間に込めた思いは上下町への思いと同じでした。


「よう帰ってきた」と喜んでくれた町の人のために

 中田建設の始まりは、大工だった先代(社長のお父様で現会長)が昭和45年におこした工務店。中田社長は大学進学で家を出て、ゼネコンで現場監督を経験して上下町に戻ってきた。工務店に設計事務所の機能も加わり、上下町を中心に建築工事の設計・施工・管理、分譲地の開発販売など不動産業も展開している。仕事の約8割は木造住宅の改修、修理だ。塗り壁、木を使った仕上がりを得意とする。
 「上下町に戻ってきた当時は、町並みのことなんて考えていなかった(笑)。ただ、町の皆さんは私が帰ってきたことを喜んでくださるし、お客様も町の皆さん。何かせんといけんという気持ちになりました」。上下町の祭りやイベントには片っ端から参加し、事務所前で焼き鳥を焼いたり、上下町の人と組んだバンドでギター演奏を披露したり。そういったことを重ねるうち、自然と町づくりへの気持ちが芽生えていったと言います。
 「事務所に吊るしている欄間は、厚みは薄いし彫刻が豪華というわけでもありません。でも薄い板を彫ると板が反りやすくなるので、そうならないように木材を選んでいたりと工夫や知恵が見られます。今、ここに残っているということは、残したいと思った人の思いも込められている。そういったものをひっくるめて、上下の文化として残したいんです」。

毎年2~3月に開催する「天領上下ひまなつり」では、店頭で奥様手作りの小物を販売。

10月中旬に行われる「天領上下白壁まつり」では、この時のために上下の人とバンドを結成。

天ぷらの衣をはいだら、上下の歴史が見えてきた

 中田建設も20年前までは、工事では施主様の要望を最優先にしてきた。会社経営としては当然のことだ。1995(平成7)年の阪神大震災を機にヘリテージマネージャーという資格ができ、国を挙げて全国にある貴重な歴史文化遺産を発掘し、それを残して地域づくりに生かそうとする動きが生まれた。建築士がアドバイスする役割を担っていた。中田社長もこの資格を取得し、もう一度、上下町の町並みを見直してみた。「上下町といえば白壁ですが、少し古い方にお聞きすると、格子の町とも言われていたそうです。でも、町並みには一見すると鉄骨造のように見える、古い建物を大きな壁で建物を覆った看板建築が多く、空き店舗も目立ち始めていました」。
※上下ではこのような看板建築の壁を天ぷらの衣に見立て天ぷら建築と呼ぶことがあるそう。

 衣料品も生活用品も何でも売る商店として長年愛されてきた瀬川百貨店を見たときも、「裏に何かある」と感じた。調べてみると、 “天ぷら”の壁の後ろには伝統的な木造の建物が残されていた。中田社長は設計や修理方法をアドバイスし、建物は見事によみがえった。それ以来、古い建物のリフォーム現場があるたびに、古いものを「個性的でいい」「使えるものは使おう」と提案する。
 「古いものがよみがえると施主さんもご近所さんも喜んでくださる。みなさんが喜んでくれることが私たちの仕事になりありがたい。歴史を生かしてまちおこしを図りたい行政の動きとも一致しています。家づくりについても町づくりについても、上下町が一つの方向に進み始めたと感じています」。

瀬川百貨店のリフォーム前(左)とリフォーム後(右)

鉄骨造のような外観の住宅を改装。瓦と格子をつけ、その内側にサッシを設けた。 「施主さんが町並みに合わせようと協力してくださったから実現できました」

 「白壁、なまこ壁、格子戸という特殊な技術を継承するため、その現場、技術を披露する機会をつくることが私たちの役目。そして職人を地元で育てたい」と中田社長。なまこ壁を積極的に提案して取り入れてもらうことで職人は腕を磨く機会を得て、別の職人はその技術を見て学ぶことができる。
 また、塗って乾くという作業がある建築の仕事では、地域の気候をどう見るかが重要になる。他市から職人を呼び寄せて壁を塗ってもらうとしても、上下町の風の冷たさを肌で知る地元の職人でないと塗るタイミングが読めない。「地元の職人にはかなわないんです。ただ仕事を終わらせるための作業ではなく、よりよい仕事を目指す職人の姿勢を目の当たりして、職種を超えてその姿勢を見習ってほしい。上下町には、仕事の満足度にこだわる職人さんがまだまだいます」と胸をはる。

工事中は施主さんにできるだけ現場を見てほしいとお願いする。職人を育てる場にもなる。「中田の職人さんはようしてくれる」と評判

文化財への登録で奇跡が起こるかもしれない

有形文化財に登録された旧片野製パン所。アーチ型の窓や、レリーフなどモダンな造りが特徴的。

 2018(平成30)年、中田社長がヘリテージマネージャーとして携わった 「片野のパン屋さん(旧片野製パン所)」が国の有形文化財に登録された。「今、住民にも町全体にも、歴史を守ろう、残していこうという雰囲気が高まっています。隣の家が文化財ならうちも該当するのではないか?と考えてくださったり、上下町に住んでいるだから残さないと思ってくださるような動きを強めていきたい。上下町には立派な建物がたくさんあります。放っておいたらなくなる、発掘することで残していける。上下町を含む府中市で、1年1箇所ずつ登録文化財を増やしたい」と中田社長は願う。
 重要伝統的建造物群保存地区も目指す。「町に箔がつけば、そこで暮らす誇りが生まれ、残そうという思いも加速していくはず。それを見に来てくださる観光客も増えれば、商店街の店がなくならず逆に増えるかもしれない。上下町の人口減を食い止めることもできるかもしれない。奇跡かもしれないが、私たちができることはそんなことかな。築5年の建物も、50年たてば文化財の資格がある。今から準備しておかないと」と笑う。中田建設の家づくりは町づくりなのだ。