すべてが選りすぐり。お客様の想像を超える味を届けたい。
ケーキにパン、そしてーピザまで!? おいしいものが食べたいという上下町民の期待に応え続けるお店があります。その名は「ビットリオ」。店内には、オーナーの片野耕治さんが35年をかけてたどり着いた選りすぐりのケーキや焼菓子が並び、店内には時折ピザの香りも漂います。
ケーキにパン、そしてピザ、上下町に新しい味を
ビットリオでの楽しみ方はいろいろある。ケーキの持ち帰りはもちろん、それをおいしいコーヒーとともに店内でゆっくりいただくこともできる。また、オーナーの母親である片野製パン所のパンも毎朝並ぶ。ピザはデリバリー、持ち帰りやイートインもOKだ。
片野さんは高校卒業後に関西の大学に進学、卒業後は実家「片野製パン所」を継ぐために製菓の専門学校でパン作りを学び、ケーキ作りの技術も身に付けた。大阪・神戸の老舗ケーキ店で腕を磨き、製菓専門学校の講師としてがむしゃらに「恐ろしく忙しい日々」を過ごした。
実家である片野製パン所3代目としての役割を果たすため、上下町に戻ることになったのは約25年前。当時の上下町の人口は7000人、職人仲間にはケーキ1本では商売が成り立たないと猛反対された。そこで目をつけたのが、当時人気があり上下町にはないデリバリーピザ。実家のパンも販売することとし、現在のビットオのスタイルになった。店名は職場の同僚がつけてくれた。イタリアの男の子の総称。ビクトリア(勝利者)にもひっかけてある。
「1,000円で4つ」のケーキで想像を超えたい
ケーキのショーケースを見ると、ショートケーキ、モンブラン、チェリータルト、チーズケーキ、シュークリームと馴染みのあるネームプレートが並ぶ。「各ケーキにはフランス名がありますが、あえてフランス語は使いません。子供でも言える、名前を聞くとパッと味が思い浮かぶようにしたい。そしてお客様が想像したその味よりもおいしいケーキを作りたい」と片野さんは言う。
よく見ると、ショートケーキは270円、チーズケーキは250円ととてもお手頃だ。チーズケーキはタルトタイプで、フォークを入れると一瞬の抵抗の後にすっと落ちるソフト感に癒され、口に入れると外見から想像しなかったチーズの濃厚な風味に驚く。大きめのシュークリームはカスタードと生クリームの二層で、まずはシューの蓋を開けて生クリームをすくう。爽やかな甘さを味わった後に持ち上げると、まだ“たぷっ”とした重量感がある。ガブリとほおばると、カスタードクリームが飛び出した。洋酒の風味が鼻を抜けていく。この満足感で120円だ。
「1000円で4つ買えるがコンセプトです。この値段は開店当初から変えていません」と聞いてますます驚く。人の好みが変化し、ケーキをつくる環境や材料の価格変動もある中で、値段を変えずに変わらぬ美味しさを届けるための難しさは並大抵ではないはず。上下の人に愛され続けるビットリオの味を守るために、どれほどの改善と新たな試みがあったのかは容易に想像できる。
ピザの決め手は4時間煮込むソース
ビットリオのピザのルーツは、ピザ宅配のシカゴピザ。生地は片野製パン所で作ったもの。「味を決めるのは間違いなくソース」と言う片野さんのソースは自家製だ。大阪のホテルで学んだソースの作り方をベースに、イタリアントマトやスパイス、肉、野菜を独自の配合で4時間ほど煮込で作る。「納得できる味にたどり着いたのは2年前のこと。それ以来、もう配合を変更していません」。35年の歴史の中での2年前という新しい数字と、それを何事もなくさらっと話す片野さんの仕事への姿勢に驚いた。
10分もすれば焼き上がる。ピザは12種類。スタート当初からメニューも価格も変えていない。店内で食べると割引になる。
お客様の想像を超えるおいしさを
ケーキ、ピザ、おいしいものを目の前にすると我慢がきかない。「今すぐ食べたい!」というお客様のニーズに応えて、喫茶コーナーもつくった。ケーキに合わせたコーヒー、自信作のパウンドケーキに合う紅茶、そしてピザと相性のよい炭酸飲料も用意する。
コーヒーは、2016年のG7サミットでされた「希望の香り®」。中国地方のコーヒー―会社5社がコラボレーションしたもの。まろやかでコクがあり、時間をおいても香りが残る。
「35年間、全てレシピ通りにつくってきました。でも気温や湿度は日々異なり、その都度、調整が必要です。材料を入れるタイミング、混ぜる時間、温度、すべての工程で気が抜けません。お菓子作りは油断すると失敗する、化学です。かつ、コスト意識をもって時間短縮もするのがプロの仕事。常にベストを尽くしてきました」。
ベストを更新し続けて35年、ショーケースにはその時点で最高のケーキが並んでいる。だから「どれがおすすめですか」と聞くのはマナー違反だ。「ここに並ぶすべてが選りすぐりです」。そんな片野さんの目標は100歳のケーキ職人だ。