駅のホームでうどんを待つ。人の温かさと福縁だらけのパワースポット
上下町にある備後矢野駅。ホームで待つのは電車ではなく、なんと、うどんやそば。それだけでも驚きますが、良縁を授かるパワースポットとしても人気です。
このページを訪ねてくださったこの瞬間から、備後矢野駅とのご縁が始まっています。上下町を訪れて、ご縁づくしを楽しんでみませんか。
見た目は駅でも中は食堂!?
外観はまぎれもなく駅でも、中に一歩入るといつもと様子が違うことに気づく。待合には大きなテーブルがあって文庫本が置かれ、地域の方の手作り作品が飾ってあり、骨とう品の間にはお土産品。「矢野駅食堂の入口はこちらです」という案内にうながされて進むと、鉄板あり、カウンター席、テーブル席、お座敷あり。厨房があり、座席スペースはホームにせり出している。
備後矢野駅は、福山市の福山駅と三次市の塩町駅を結ぶJR福塩線にある。旧国鉄の合理化の一環で1983年に無人駅となった。1年もすると蜘蛛の巣が張り蛾が飛び交い、駅は汚れて駅前の活気がますます失われていった。
無人駅といっても通勤や通学に利用する人もいるし、今は休館してるが県内有数の矢野温泉の玄関口でもある。近くで縫製業を営んでいた里武三さんは「このままではいけない」と駅舎を無料で借り受け、切符の販売や駅舎の管理を始めた。電車は上り下り各6本、午前9時前から午後4時前までは全くない。駅での待ち時間を楽しでもらえるようにと食堂を始めた。
「福縁阡うどん」で福縁が倍々
学生さんから高齢の方まで、どんな年代の女性にも「お嬢さん、いらっしゃい!」と明るく声を掛ける里さん。そんな里さんが開発したのが、名物「福縁阡うどん・そば」。福塩(ふくえん)線の漢字を「福縁」ととらえ、「福の縁が千ほどたくさんあるように」という願いを込めた。田舎らしさも楽しんでもらおうと、きび、うめ、よもぎの3種の丸餅が入っている。3つの丸餅(円=縁)が重なり合っているのは、ご縁が重なりつながるようにという願いを表現したもの。餅3個は予想以上の満腹感で、料金は開業当初から変わらず555縁(円)とリーズナブルだ。
ご縁をさらに増やすこともできる。うどん・そばに25円を追加すると、駅名の焼き印を押した駅特製のお守りがもらえる。料金は580縁(円)。「290(ふくえん)の2倍で福縁も2倍です!」とのこと。食べる分だけ福縁がどんどん増えてくる。
食堂ではお好み焼きやカレーライス、ケーキセットもあり、食事や喫茶としても利用できる。鉄道ファンやパワースポット巡りを楽しむ観光客はもちろん、地域の人々の集いの場としても頼りにされている。
油断するべからず!駅構内に福縁スポット点在
食堂だけでなく、駅構内のあちこちに福縁にちなんだものがある。ぼんやりとしていると見逃してしまうほど、たくさん散りばめてある。
改札口には「幸(しあわせ)の門」と看板が掛けられている。くぐってホームを進むと布袋様が現れる。原木は、里さんの知人の製材所で放置されていたマツ。上下町内に生えていたものが台風で折れ、木は曲がっているし建材として使い道がなく焼却寸前だった。持ち帰った日の夜、夢の中で「布袋さんに彫ってくれ」とお告げがあり、能面を彫るのが得意な親類に彫刻を依頼した。社は、府中市内の旧家から譲り受けた200年前のものだ。「ご縁でここに来ていただいた」という里さんの優しい笑顔と布袋様の太鼓腹を見ていると心が安らぐ。金運の神様だけに、願いごともしておきたい。結びつける短冊は食堂の入り口でもらえる。
良縁を授かり、福縁をお土産に
駅の入り口も要チェック。昔ながらの赤と黄色のポストが、まるで門柱のように設置してある。ポストの投函口を見ると、赤は開いていて黄色は閉じている。「あ・うんのポストですよ」と教えてくれた。赤は実際に使われている郵便ポストで、黄色は今のところはオブジェ。映画「幸せの黄色いハンカチ」をヒントに、駅で手紙を書き福縁の駅から投函してもらうという「幸せの黄色ポスト」計画もある。
ポストから少し離れて見上げると、幸せの黄色いハンカチを思わせるフラッグもかかっている。「ここにも福縁があった!」と見つけてうれしくなる。
ここで待ち合わせをして結婚が決まったカップルが報告をしに来たり、上下町の住人になったカップルもいるそうだ。里さんは結婚式に参加したこともあるそう。「良縁を授かる駅」として人気が広がっている。
備後矢野駅での時間をたっぷり楽しんだら、「福えんせん」をお土産に。新商品の丸せんべいには福と幸の字の焼き印が押され、福塩線の「線=ライン」がデザインされ福縁がつながっている。人の幸せを願う人の温かさと福縁を、大切な人へのお土産に。