はずれがない居酒屋メニュー
常連客と上下の魅力を味わう

焼きとり かかし

食と出会いは旅のだいご味。できることなら常連客が集う確かな味を、気後れすることなく楽しみたいものです。そこでおすすめするのが「焼きとり かかし」。「店名は焼きとりですが、何でもある居酒屋です」と笑う気さくな店主が出迎えてくれます。


旅館の一角、たったの11席でスタート

同店の始まりを語るカウンター席

 白壁の町並みが残る上下町商店街。なまこ壁と格子が印象的な建物に、「焼きとり かかし」と書かれた看板が静かに掲げられている。上品な風情に少し緊張しながら戸を開けると、「いらっしゃい!」と明るい声が響いてほっとする。
 店主は松坂賢一さん。ここは奥様の実家で、もともとは旅館業を営んでいた。今から約30年前、旅館業の衰退の兆しが見え始めたころに、岡山でビジネスマンをしていた松坂さんは脱サラし、この旅館の一角のカウンター11席の焼き鳥店を始めた。
 当初、上下町で居酒屋は珍しかった。食事処は早く閉まってしまうので、酒を飲むなら旅館でというのが一般的な宴席の形だった。正月やお盆に帰省した若者たちが集まる場所がなく、それならばと24時まで営業した(現在は23時まで)。
 開店して7年たったころ、お客様を旅館のスペースに案内したり、お断りしたりすることも増えてきた。旅館を改装し、現在の形である居酒屋の営業を始めた。開店当初からのカウンター席に加えて、個室にもなるテーブル席、座敷席がある。仕出しにも対応。主にご夫婦で営業している。

「はずれがない」と評判の定番メニュー

100種類はあるメニューから何を頼もうかと選ぶのが楽しい

 メニューを開くと、とりあえず逸品から始まり、焼き物、揚げ物、創作メニュー、焼き鳥、お刺身、サラダ、鍋に麺、チャーハンまで多種多様。数えてみると約100種類もあった。  
 とりあえず、ほとんどの常連客が頼むという日替わりのお刺身をオーダー。週3回、尾道に仕入れに行くそうだ。山深い上下町で新鮮な魚がいただけるのはうれしい。冷酒がほしくなったら、同店オリジナルラベルの山岡酒造(三次市甲奴町)の純米吟醸酒をぜひ。
 もちろん、焼き鳥もある。店主がカウンターで焼いて、熱々を提供してくれる。そのほか、創業時から変わらない定番メニューのとん平焼きもビールが進む一品。ネーミングが楽しい仲良しビザは、たこ焼きとお餅のピザで予想以上のボリュームだ。締めにぴったりな雑炊は通常でも4種類、冬には牡蠣雑炊も登場する。たくさんのメニューの中から、あれこれ味わえるのは居酒屋ならでは。「どれを頼んでもはずれがない」と評判だ。

地域で頼りにされる憩いの場

 2階は45人収容できる座敷で、仕切って5人の宴会から対応。宴会コース料理は一応3000円からとしているものの、予算に合わせて相談にのってくれる。3階は屋上ビアガーデンとなっていて、ビールサーバー付の貸し切りスペース。料理はオードブルセットや焼き肉セットをオーダーできる。テントを開けるとオープンエアになり、青空から星空になる上下の空の下で楽しめる。
 少人数の気軽な飲み会から、大人数の集まりまで幅広く対応。新年会、忘年会、同窓会、PTAの集まりなど、地域の人に頼りにされている。「若い人の憩いの場になれば」と始めた店だが、店主とともにお客様も仲良く年を重ねてきた。
 ふらっと一人でも安心を。カウンター席で店主と旅の話で盛り上がるのも楽しい。これまでの旅人の話も聞かせてもらえるはずだ。また店主は趣味が多く話題が尽きない。ゴルフ、阪神、相撲好き。テーブル席の個室や小上がりの座敷の席札には、関脇、小結、行司と名前が付けられている。

2階の座敷は5人から最大45人まで対応

上下の風を感じながら楽しめる3階の屋上ビアガーデン

この土地に暮らす人に出会える場所

 「上下町は歴史あるまち。この雰囲気を守りたい」と外観になまこ壁と格子を取り入れた。町並みだけでなく上下町の暮らしにもなじみ、町の人たちからは「できる限り店を続けてね」とリクエストされている。その期待に応えるため、松坂さんは毎朝4㎞のウオーキング、スクワット50回を日課とし、時々ゴルフコースを回り体力づくりに励む。
 上下町では毎年10月に「かかしまつり」が開催され、町にいたるところに一般募集したかかしが田畑や店先などに展示される。時事ネタをモチーフにしたものなど、工夫を凝らしたものばかり。実りの秋を賑やかに彩る。「焼きとり かかし」は季節を問わず大にぎわい。「居続けて飲む場所」という居酒屋の由来に忠実に、ここに居続けて飲み食べ続けてみてはどうだろう。「誰もが安心してくつろげる場所」を目指すここでの出会いが、上下町の思い出をより深いものにしてくれるはずだ。