時間が許す限りのんびり、ゆったり。
優しい気持ちに出会えるバラ園

おづかバラ園

好きなものが同じという人に出会うと、なんだかうれしくなります。それは楽しさや感動を共感できる期待にワクワクするからかも。バラ好きの仲間との出会いをきっかけに、「趣味が高じて」とバラ園を運営する小塚泰江さん。秋の終わり、今年最後の美しい姿を楽しませてくれる観光バラ園「おづかバラ園」を訪ねました。


春、夏、秋と1年を通して楽しめる

 春から初夏、全国各地でバラに関するイベントが開催される。おづかバラ園でも開花のピークは5月末から6月にかけて。近年は、このピーク時のみバラ園を開放している。
 園内には約300種類のバラが植えられている。スタンドと呼ばれる自立するバラには高さの変化がつけてあり、視界を賑やかにしている。株と株に間隔が空けてあるので、バラに近づいて360度ぐるりと観察できるのもうれしいところ。「バラのそばで、その姿と香りを楽しんでほしい」という小塚さんの思いからだ。
 春になると、園内各所に赤やピンク、白いバラのアーチができる。そこをくぐるときの高揚感は何ともいえない。振り返ると今歩いてきた場所がバラで縁取られ、特別な景色に見えてくる。そのほか、小塚さんが好きな漫画「ベルサイユのばら」の世界にちなんだ名前のバラを集めたベルサイユコーナー、バラ園を応援してくれていた義理のお父様が好きな色にちなんだ白いバラを集めたコーナーも見どころだ。
 バラの鑑賞のほか、バラの苗の販売、バラを使ったハーバリウムやアレンジメントの販売・体験教室、ソフトクリームの提供もする。手作りの東屋があり、お弁当を持ち込んで一日過ごす人もいるそうだ。木陰にバーベキューセットも常設されており、予約をしておけば材料も準備してくれる。

園内は高低差があり、上からも下からもバラ園の全景を眺めることができる

東屋は小塚さんご夫婦の手作り。バラに囲まれてゆっくり過ごせる

訪れるたびに新たな魅力に出会える

お気に入りのバラを聞くと、「どの子もかわいくて選べない」と話す小塚さん

 おづかバラ園の始まりは、小塚さんが以前勤めていた職場で「好きな花はバラ」と話したことに始まる。同僚にもバラ好きがいて、バラの育て方を研究する福山バラ会に誘われた。月1回の研究会に参加し、バラ仲間と一緒にバラ栽培に没頭して気が付けば20年。実家の田畑を使って、バラ園を運営することになった。
同園にはリピーターが多い。「バラの育て方を教えて」と訪ねてくる人や、「今年はこんなふうに咲いたよ」と報告に来る人も。美しいバラを見て、苗を購入してバラ栽培を始める人も多い。バラを育てる仲間の情報交換の場になっている。「私がお客様に教えていたただくことも多いんです。バラが好きな人は心もキレイ。皆さん、もったいぶらずに教えてくれます」と嬉しそうに話す。
 小塚さんにバラの魅力を聞くと、「バラは一年を通して楽しめる四季咲きだけでなく、春に開花した後もう一度開花する品種もある。一年を通して楽しめるというのがバラの醍醐味ですね」とのこと。実際に、秋のバラ園でも開花したバラを見ることができた。「バラは手をかければ、こうして美しい姿と素晴らしい香りを楽しませてくれます。心を込めた分、ちゃんと応えてくれるのやりがいがある」と話す。

一年を通して楽しめるバラだが、開花のピークはやはり春から初夏

バラに毎日話しかけて変化に気づいてやる

 小塚さんは毎日、バラ園を歩く。「おはよう」「よしよし、頑張ってるね」「あら、葉の色が悪いねぇ」と声をかける。「バラは観察が大事。変化に早く気づいてあげることが美しく咲かせるコツかな」。
 11月にはつるバラの誘引、1月には1年のバラの栄養源となる寒肥えをする。2月には四季咲きなどの剪定。寒さに耐えて春に花を咲かせる力を持った、ふっくらとした芽を見つけて、その芽に栄養を集中させるために余分な芽を切り落とす。3月にも肥料を一株ずつに与え、「しっかり芽を出してね」と願う。春に向かって気温が高くなってくると虫がつきやすくなるため、状況をみながら消毒。つぼみがつかない新芽を切り落として、一斉に開花するように調整していく。それでも毎年、開花前には緊張するそうだ。「1年1年が初心者です」と話す。

バラ栽培に詳しいことを証明する「ローズソムリエ」認定証

お客様が喜んでくれたら、バラも喜んでくれる

 バラ園の運営のほか、知り合いのバラ園の手伝い、道の駅でのフラワーアレンジメント教室、栗園のお世話もするなど毎日忙しい。なんと田んぼもあるそうだ。「忙しいことはありがたいことです。お陰様で風邪知らず。私が元気でいないと、この子(バラ)たちの面倒みてやれないから」とバラの首を持ち上げて見つめる。
 小塚さんと園内を歩いていると、私のストールがバラの棘にひっかかってしまった。「歯向かうとだめよ。ひっぱるんじゃなくて、優しく離れるように動かすとお互いがケガをしないから」とストールを棘からふわっと離してくれた。小塚さんに影響されて、私も「ごめんね~」とバラに話しかける。美しいバラと、それを育てる人の温かいまなざしが、心の棘を抜いてくれたのかも。
 温かくなってくると、園内のあちこちにテーブルやいすを出すそうだ。「のんびりゆったり、時間がゆるす限りくつろいでくださいね。お客様が喜んでくれたら、バラも喜んでくれるはずだから」。優しい気持ちに出会いに、春のおづかバラ園を訪れてみたい。

受付では、バラの苗の販売やソフトクリームの販売も行う