ひらひら泳ぐ姿はまるで“宝石”
まだ見たことのない世界を求めて。
赤、白、黒を身にまとい、キラキラと輝きを放ちながら泳ぐのメダカ。その美しい姿は、「泳ぐ宝石」とも呼ばれます。品種改良されたメダカは色彩豊かで美しく、自由に泳ぐ姿に時間を忘れて見入ってしまいます。上下町で「日本めだかセンター」を営む上山幸延さんもその一人。上山さん自慢の“きらめきの世界”をのぞいてきました。
改良の可能性、難しさにのめり込む
昔から親しまれているメダカ。丈夫で飼いやすく、特別な設備も不要。家庭で飼う人が増えている。メダカの品種改良も急速に進み、改良メダカ愛好家は全国に500万人、メダカ業者は100軒はあるともいわれる。改良メダカブームの火付け役といわれる、朱赤色の「楊貴妃メダカ」は広島県廿日市市生まれ。「広島は改良メダカ発祥の地なんですよ」と上山さんに聞いて誇らしい気持ちになる。
上山さんは上下町で看板などの屋外広告や各種印刷業を営む。趣味で川の魚をとって育てていたところ、近所の人が赤いメダカを持ってきてくれた。改良メダカの世界を知り、メダカ同士のかけ合わせ方でこの世にない珍しい特徴を持ったメダカが生まれてくる面白さに強くひかれた。2010年ごろのことだ。
2014年には、日本めだか協同組合の「第1回鑑賞メダカ品評会(愛知県)」で敢闘賞を獲得。受賞した「楊貴妃透明鱗光半だるまスモールアイ」は、気品のある朱色の体で、ひれのあたりが透けていて美しい。「これは意図してできたものではなく突然変異。突発的に出てきた特徴を繁殖させ、安定して次の世代にも引き継ぐのが難しい」と上山さん。「いざ作ろうとするとうまくいかない」。その難しさが、もともと凝り性の上山さんの心に火をつけた。2015年、会社内に改良メダカの専門店「広島めだかセンター」をオープンさせた。店頭、ネットや電話予約で販売している。
新たな表現を探して、会社をぐるり800ケース
同センターの入り口には、販売用メダカの飼育容器ズラリと並ぶ。指を近づけると餌をもらえると思ったメダカが一斉に寄ってくる。口をパクパクとさせる健気な姿に申し訳ない気持ちになる。
会社建物の周囲は、飼育容器でぐるりと取り囲まれている。その数はなんと800ケース以上。東西南北に水槽を置いて、光の当たり方による育ち方の違いを検証しているそうだ。朝日を浴び午後は太陽光が当たらない東は朱色が濃くなり、西日をたくさん浴びると色が薄くなりがち。黒いメダカに太陽をたくさん浴びせると体が温まり産卵が早まる、といったことが分かってきた。会社裏手には珍しい品種を大切に育てるビニールハウス、冬場に加温して早く成長させることができる加温水槽もある。上山さんの本気度がうかがえる。
「メダカは光の魚。上手に育てるには光と水が大事」。餌を食べ元気に動き回ると、水は汚れる。メダカにストレスを与えないように、水質維持と水換えは重要なお世話だ。800ケースもあるので、水換えが一巡するのに1カ月はかかるそうだ。「メダカ飼育は元気じゃないとできないね」と笑う。
目指すのは誰が見ても美しいメダカ
2018年、国内最大規模の団体「日本めだか協会」(広島県廿日市市)が行う「第10回日本メダカ品評会」で最優秀賞を受賞。背中一面が金色に光る。品評会での受賞は上山さんの励みになっている。
上山さんオリジナルのメダカは12品種あり、その中でも特にお気に入りは「紫苑三色ラメ」。頭が赤く、体は白黒、3色を身にまとった錦鯉のような姿だ。光を反射させながら動き回る姿は「泳ぐ宝石」。取材時には約3,000匹の飼育に成功し、さらに柄や色がきれいなもの、大きさなどで選別して20、30ペアに絞る。固定化を進めて、2021年から販売する予定だ。
上山さんが目指すのは「誰が見てもキレイなメダカ」。そのために「今生まれているメダカをよりグレードアップさせていきたい。もっと光を届かせる、ひれを長くする、色を濃くするなど改良の余地はまだまだあります。こうした改良をいかに早くできるかに挑戦しています」。
「結局はかわいいけん、商売はできない」
品評会で入賞し、雑誌にも掲載されたことで人気が広がり、お客様は四国や関西、遠くは沖縄からもやってくる。珍しい品種を見つけたお客様から「売ってほしい」と頼まれるが、つい断ってしまうと言う。珍しいものは稀少性が高く、高く売れる。それでも、「固定化させたいっていう理由もあるけど、趣味で始めたけん、珍しいものは自分の手元に置いておきたいんよね。商売ができんね」と笑う。
店頭にきたお客様から、育て方を相談されることも多い。「それぞれの飼い方、環境もいろいろあるから、私のやり方を押し付けないよう提案しています」と控えめ。とはいっても「季節の変わり目は体調を崩しやすい。梅雨に入るときや、冬になるときね。そこを乗り越えると大丈夫」とアドバイスを忘れない。
上山さんが水槽の近くを歩くと、メダカが群れになってついてくる。「メダカはなつくんよ。特に、改良が進んだメダカはようなつくね。ついてこん(こない)腹の立つメダカもおるけどね」とメダカを見る目が優しい。なついてもなつかなくても「かわいくて仕方がない」という上山さんの愛情が伝わってきた。