猫を探してゆるりと過ごす
上下の味に心が休まる場所。

ゆる利

もともとは犬派だったというオーナーが営む、猫をモチーフにした和雑貨とカフェのお店「ゆる利(り)」。店内で猫のモチーフを探したり、地元食材を使ったランチを味わったりと楽しい時間を過ごせます。お店の中だけでなく、外にも猫がいたことに気が付きました? ぜひ、見つけにきてください。


築140年以上の古民家を改装、猫モチーフがあちこちに

 緩やかにカーブする商店街の、そのカーブとなる場所に「ゆる利」はある。商店街の東西からよく見える。
オーナーの黒木保江さんの実家で、大型の農業機械の販売を営んでいたが、店を閉める事になった時、「空き店舗のままにしていると、街に活気がないような印象を与えてしまう」と心配した黒木さんは、地域の人のおしゃべりの場になればとカフェを始めた。一人で経営するためコーヒーを待ってもらう時間が長くなることを心配して、待ち時間を楽しくするために雑貨を置くことにした。
 築140年以上の建物をリフォームした店内には、明治時代の梁がそのまま残されている。黒木さんのお母さんの嫁入り道具の箪笥やミシンを什器にして、和雑貨がディスプレーされている。和雑貨にしたのは、商店街のほかの雑貨店の商売を邪魔したくなかったから。そして、猫モチーフの雑貨が多いのは、犬派だった黒木さんがたまたま知り合いの子猫を預かることになり、面倒をみるうちにかわいくてたまらなくなったから。商品を見ていると、湯呑み茶碗に、バッグに、ハンカチなどから猫がひょっこり現れる。

コーヒーを待ちながら、雑貨を選ぶ時間を楽しめる

食器、服飾小物などが並ぶ。よく見るとひょっこり猫グッズ

見上げると看板にも猫

ランチは上下のおうちごはん

 カフェを始めた当初は、コーヒーとケーキを出していた。半年たったころ、地域の人からランチのリクエストがあった。「家が自営業で中学生のころから料理を作っていたし、母を亡くしてからは父の介護で13年、3食を作ってきたので料理することは苦ではなかった」という黒木さん。何を作ろうかと考えていたとき、広島市内の友人が上下町に遊びにきた。友人が喜んでくれたのは上下町の旬の食材を使った料理。そこで、その日にある食材で手間暇をかけて作る、「おうちごはん」を始めた。
ランチのメニューはその日ごとに違う。取材した日のランチは、黒木さんの畑でとれたムカゴのごはん、畑で育てたパプリカと鶏肉の甘酢あんかけ、地元産のそうめんうりの酢の物、もうたけの醤油煮、天ぷらはシソの実とマコモダケ。普段、目にしない食材であるほど旅行気分が高まる。秋が深まってくるとキノコ料理、冬には大根やカブが増え、春に向かってタケノコや山菜が登場する。上下の季節を味わえる。
おうちごはんは800円、ケーキ付きで1000円。黒木さん一人でお店を回しているためできる限り事前に予約を。
ケーキセットのケーキもその日に手に入る食材で作る。飲み物とのセットで、オープンから変わらず500円。この日のケーキは、上下産のショウガを使ったシフォンケーキだった。ふわふわの生地を口に含むと、甘い空気とともに丸みのあるショウガの香りが広がった。町内の梶田ぶどう園のシャインマスカットも添えてある。ドリンクはコーヒーのほか、紅茶やココア、オレンジジュースなどいろいろ。季節限定で甘酒やぜんざいも用意する。喫茶は予約なしでも大丈夫。

上下の季節を味わえるランチ「おうちごはん」

黒木さん手作りの本日のケーキセット

思いを吐き出して、心を休める時間に

 人気の席は、大きな窓際の席。道行く人を眺めていると心が静かになっていく。気が向けば、カウンター越しに黒木さんと会話を楽しんでもいい。介護経験のある黒木さんに、一人で介護をするつらさを打ち明ける人も多いそうだ。ここでランチを食べて、家で待つ人に弁当にして持ち帰る人もいる。月2回、60歳以上の人に「シルバーランチ」として、800円を600円で提供している。「悩みを一人で抱え込んでいる人は多い。ここで心を休めてほしい」と願う。
 月1回、お花のレッスン教室にもなる。黒木さんもできるだけレッスンに参加して、一緒に楽しむ。プリザーブドフラワー、リース、ハーバリウムなどの作品が店内に飾られている。コロナ禍前まで、地元の人による写真展も毎年恒例行事だった。利用料をとっていないのは、「ここでゆっくり過ごしていただけることなら、何でも協力したい」という思いからだ。

とにかく話しかけられる商店街

 店頭には、満開の鉢が並ぶ。ご近所で上手に咲かせていたのを見て分けてもらったそうだ。黒木さんも花を増やし、隣へと分けている。「花が咲いていると、道行く人が立ち止まって見てくれます。そんな姿を見かけると、私も外に出てお話しするんですよ。上下が初めての方でも、歩いているとあちこちで話かけられると思いますよ」と笑う。初めて訪れても、何度行っても楽しめるはずだ。窓越しに車いすの人を見かけると、「トイレを使ってくださいね」と声をかける。店内はバリアフリーで、トイレは車いすで利用できる仕様になっている。
 「ゆる利」という店名は、上下をゆっくり楽しんでほしいという思いから名付けたそうだ。「利」は、黒木さんのお父さんの名前の一部。ゆる利は今日も人を思い、ゆるりとオープンしている。

道行く人の目を楽しませる、季節の花をいけたショーウインドー

明治時代の面影を残したしつらえに心が落ち着く