旅の途中にひとやすみ、
うなぎの寝床で幻に出会う。

ひとやすみ(末広)

「面白いところがあるよ」と商店街で教えてもらって向かったのは、「末広&ひとやすみ」。大正時代に芝居小屋や映画館などの娯楽施設としてにぎわった「翁座」の近くにあります。入口には美術品や骨董品、看板には和風喫茶、郷土人形館に酒蔵展示館とあり、なんとカラオケまで!? ここは、うなぎの寝床。ずんずん進むと想像以上の奥深さ。さまざまな楽しみが待ち受けています。


お宝に出会ってるかもしれない予感

「末広&ひとやすみ」はもとは造り酒屋で、昭和47年(1972年)に廃業し、今は美術品や骨董品を扱い、内装業も営む。
店頭には、上に横に奥にと陶磁器、絵画、掛け軸などがぎっしりと並ぶ。目の前の圧倒的な商品群に「お宝に出会っているのかもしれない」と骨董が分からなくても気持ちがはやる。その隙間に、普段使いの食器や上下町のお土産など、新品の商品もある。浮世絵柄の小皿は外国人に、人気キャラクター柄は子どもたちに人気。贈り物を求める地元客も多い。
店を守る田邉澄子さんにおすすめの品を聞くと、「お一人お一人で珍しいと感じるものや、ほしいと思うものは違うでしょ。だからおすすめは特にありません。うちにきて探してみてください」とのこと。
もう一度、店内を見回してみる。一度見たはずなのに、さっきは気がつかなかったものが見つかる。「いいものに出会えそう」という予感にわくわくして、納得するまで探し続けてみたくなる。骨董が好きな人にはきっとたまらないはずだ。

美術品や骨董品がずらり。さりげなく置かれた中にお宝を発見

人形師も頼りにする、幻の「郷土人形館」

「奥へどうぞ~」という声の案内で進むと、約7000坪の敷地には精米蔵や麴室など造り酒屋の面影がそのまま残されている。空き蔵を活用しようとコンサートを行っていた時代もある。さて、今の精米蔵は…。
引き戸を開けると、壁、床、天井まで空間を埋め尽くす人形の数々。それらは幕末から明治、大正、昭和初期にかけてつくられた人形で、その数は約2000体。澄子さんが空き蔵を整理していたときにたまたま見つけた上下人形をきっかけに、上下の歴史を物語る資料を残そうと収集するようになった。「町おこしに協力できるなら」と平成14年(2002年)に郷土人形館をオープン。今も無料で公開している。
土人形は幕末には全国に100近い産地があり、広島県内では三次、三原、庄原、そして上下町でも作られていた。上下人形は、明治20年代(1887年~)に上下町に住む安友徳吉さんが始めたとされている。その後は2代目の長男・唯一郎さんに受け継がれて昭和10年(1935年)ごろまで続いた。制作された期間が短く、作られた数も残っている数も少ない幻の人形だ。子供の成長を願うものとして親しまれ、当時は子供が多かったことから一家で10体ほど並べている様子が見られたそうだ。展示を見て分かるように大きさはさまざま。値段のバリエーションもあったようだ。
上下人形は三次人形と雰囲気が似ているが、それよりも少し細面でつり目。持ち上げると意外と軽い。人形の前と後ろの型を張り合わせるつくりになっているので中は空洞だ。その木型も展示されている。「人形をきっかけに上下町を知っていただけるとうれしいです」と澄子さんは話す。

幻の人形を展示する「郷土人形館」

赤や青など鮮やかな色で描かれた上下人形

当時の蔵人気分に浸る「旧酒蔵展示館」

続いて、かつての「麴室(こうじむろ)」に入ってみる。床にもみ殻が落ちている。これは麴室の保温・保湿のために、もみ殻を上下四方1mの厚さで敷き詰めてあったためだ。
中には、酒造りで使っていた桶やタンク、ろ過器、もろぶた、珍しい陶器の飾り樽などが展示されている。酒造りをしていた明治から大正時代の様子を伝える古い写真も飾ってある。麴室に立ち、ここで酒造りが行われていたことを想像してみる。“麹室は酒屋の財産”と呼ばれるほど酒造りに大切な場所で、普段は簡単には入らせてはもらえない。想像力を働かせて、当時の蔵人になった気分を味わってみよう。
お酒のラベルも残されていた。1枚のラベルを半分に切り、裏面に新しいラベルを印刷してあるものがあった。資源が貴重だった戦時中のものだろうとのこと。残されたラベルから、焼酎を造っていたことも分かった。「こんなものもありますねぇ」といまだに澄子さんが驚くものが出てくるそう。時間をかけて、一つひとつをじっくり見てほしい。

上下特産「ぎゅ~そば」でひとやすみ

貴重な資料をたっぷりと楽しんだあとは“ひとやすみ”。
骨董品コーナーの裏に、「和風喫茶ひとやすみ」がある。靴を脱いで小上がりの和室に座った。お昼ごはんに「ぎゅ~そば」をお願いした。上下の新名物として開発されたもので、町内の何カ所かでいただくことができる。上下産のそばと牛肉を使い、お店によってトッピングやセットする料理を変えて特徴を出している。こちらでは、お惣菜の小鉢3つ、おむすびが添えてある。ぎゅ~そばはしっかりとした味付けで、白飯のおむすびとよく合う。お惣菜は澄子さんが作ってくれる季節の野菜を使ったもの。定食をいただているような満足感だ。
食後はコーヒータイム。サービスで駄菓子が付いてくる。ほっと一息ついていると、「今日はぜんざい」とお客さんが入ってきた。「みんな、ママと話したくてくるんよ」と、レジ近くのテーブル席にゆったりと座った。次に来た時には、常連さんっぽくぜんざいを食べようと決めた。
 「ひとやすみ」という店名は、澄子さんが好きな「人を癒す」という言葉から連想したものだそうだ。誰にでも読めるようにひらがな表記とした。ここにいると今と昔の境目を漂っているようで、力が抜けて心地いい。忙しい日々の合間に、旅の途中に、「末広&ひとやすみ」でひとやすみしよう。

ぎゅ~そばセットは、澄子さん手作りのお惣菜が好評

サービスの駄菓子がうれしいコーヒーセット

中庭を眺めながらくつろげる和風喫茶「ひとやすみ」