物語が集まる1989年生まれのバーで
今日のスペシャルを味わう夜。

BAR DUDES(バー デュード)

旧片野製パン所近くのある一角に、週末の夜になると静かに明かりが灯ります。看板は出ていません。近づいて一段上がると、足元のタイルに「BAR DUDES(バー デュード)」。扉を開けて進むと、カウンターの奥に女性が一人。ドーム型天井の空間にトーンを落とした照明が柔らかな陰影をつくりだし、ブルーの照明で照らされたボトルがきらめいています。最初の一杯は、今日の出会いを祝うスペシャルなカクテルから…。


1989年、「上下町におしゃれなバーを」と始まった

扉を開けると、まるでギャラリーのような雰囲気の玄関ホールがある。ここで上着や今日の頭を悩ますことなどを脱ぎ捨てて、これから始まる時間への期待に胸を膨らませながらもう一つの扉を開ける。旧片野製パン所の工場を生かした建物で、ドーム型の高い天井が印象的。一枚板のカウンターに、10席が上品に並ぶ。
始まりは1989年。カウンターの奥にいる女性が、バーテンダーでありオーナーの奥平あつこさん。ワインバーで働いた経験のあるあつこさんの夫が「上下におしゃれなバーを提供したい」つくった空間だ。カウンターは銘木といわれる紫檀の一枚板で、木目が美しく肌触りがいい。
25年前に急遽、あつこさんがバーを引き継ぐことになった。それまで、あつこさんは飲食業の経験なし。あつこさんは子育て真っただ中で、お子さんの成長に合わせて、また稼業の手伝いもしながら営業日を調整してバーを続けてきた。現在は木~土曜の夜の営業で定着している。「引き継いだ当初はお酒をつくるより飲む方が好きだったかな」と笑う。

カウンターは銘木・紫檀の一枚板。カウンターは1989年から一度も歪んだことがないそうだ

出会いを集めたドリンクの品ぞろえ

ドリンクは、ワイン、ウイスキー、焼酎が充実していて、日本酒やビールもある。おすすめは、樽入りウイスキーのマッカラン。そして「実は、こんなんなものも…」と棚の奥から取り出して見せてくれたのは、秘蔵のウイスキー。開けるタイミングを探しているそうだ。最近は、ノンアルコールドリンクも増えてきた。それは、あつこさんが世界中の人が知るセレモニーでワインを提供する会社の美味しいノンアルコールワインに出会ったから。
今日は飲まないという人には、コーヒーをハンドトリップで淹れてくれる。上下町の小倉園さんの「上下の香茶」もある。カクテルも提供する。美しいメニュー表を見ながら選んでもいいし、あつこさんにお任せしてもいい。初めての来店に緊張する私に、「強いのがいい?甘いすっきり?」と聞いてくれ、シェーカーを振ってくれた。
目の前に置かれたのは琥珀色のカクテル。私の好みと今日の気分を表現してたそうで、正式な名前はない。ベースはラム酒、サクランボを添えてかわいくしてくれた。常連客から「看板カクテルをつくったらいいのに」と声が上がり、このカクテルはこれからの看板メニュー「TODAY’S  SPECIAL(トゥデイズ スぺシャル)」となった。明日はまた違うカクテルかもしれない。

本日の看板メニュー「TODAY’S SPECIAL」。

今日の出会いをイメージしてシェーカーを振る

選ぶのも楽しい、美しいカクテルメニュー表

フードにもピアノにも物語がある

フードで最近の一押しは、神石高原町からやって来るお客様が教えてくれた皮つきカシューナッツ。日本国内で処理に困っている鶏糞を完全発酵させベトナムに輸出して有機肥料をつくり、その有機肥料で育てた作物を輸入し商品化するというプロジェクトから生まれた商品とのこと。無農薬なので薄皮のままローストしてあり、薄皮の香ばしさやほどよい塩気がやみつきに。そのおいしさに感動し、店内で販売もしている。
上下町内にあるケーキ・パン・ピザハウス「ビットリオ」や、5日前までに予約をしておくと惣菜店「ホームキッチン」のデリも準備してもらえる。

カリっとした食感、ほどよい塩味。食べ始めると止まらない

この日は自家製のおつまみが登場。干し柿とクリームチーズをワインと

店内を見るとアップライトピアノが置いてある。振り向くと電子ピアノも。ここでお酒を楽しみながらピアノを弾きたいというお客様のリクエストで置いたそうだ。高い天井に気持ちよく音が響く。即興でジャズを弾いて歌うお客様も。プロの演奏家を招いてコンサートをしたこともある。タイミングが合えば、ピアノの演奏が聴けるという楽しみもある。

お客様のリクエストで置いたピアノ

探してでも行きたい、とっておきのお店に

上下町で理容院「髪屋のモリヤマ」を営む森山さんも常連客の一人。デュードができた時からいつか行ってみたい、連れていきたいと思っていた憧れのお店とのことだ。娘さんが地元に帰ってきたらこの店に一緒に来る。「ここに来ると上下の誰かに会えるし、誰にも会えなくても、あつこさんを独り占めできる楽しみもあるしね」と笑う。

そんなあつこさんを少し独り占めして、お話を聞いてみた。定期的に山に登る趣味があり、美しい姿勢と健康な歩き方「ポスチュアウォーキング」の講師の経験もあるそうだ。最近は、天然酵母のパンづくりにも挑戦中とのこと。「いつかお店で出せたらいいな」と話す。
一人ひとりに、今日この店にいる理由があって、物語がある。「いろいろな物語に耳を傾けたり、物語を感じたりしながら楽しく過ごしてもらえたら最高。気軽に立ち寄ってほしいです」とあつこさん。
看板を出していないのはわざとで、「この店に興味を持ってくださった方に探してきてほしいから。この店が好きだと言う方に来てほしいから」という理由。確かに目印はなくていい。一度来れば、心にしっかりと刻まれる。大切したいお気に入りのお店として。

週末の夜、静かな一角に明かりが灯る

足元に店名「BAR DUDES」と刻まれている