散髪だけじゃない、育毛に脱毛、趣味の話も。
行く目的がたくさん見つかる理容院

髪屋のモリヤマ

理容院に行く目的といえば、ずばり散髪。「髪屋のモリヤマ」はそれだけではありません。育毛に脱毛メニューもあり、店主が体半分だけ脱毛を試したのを見てみたいし、動画配信で知った大正生まれのおばあちゃんにも会ってみたい。店頭の電光掲示板に流れる情報はほかとはちょっと趣向が違うらしい。気になる話題が盛りだくさんです。店主の森山進一さんは「上下町の端っこでひっそりと営業しています」と話しますが、とても「にぎやかに営業」されています。


育毛・脱毛を自身で検証、24時間対応でWin Win

森山さんは、戦後すぐに開業したヘアサロンの3代目。理容専門学校を卒業後に廿日市市の理容院に勤め、今から約20年前に家族とともに上下町に戻って来た。美に携わる髪のプロとして理容院として営業しつつ、育毛や脱毛のメニューも用意する。注目は脱毛メニューで、数年前から自身の体でその効果を試している。右半分を脱毛し、左半分はそのまま。「脱毛効果を見てもらうために、左半分はムダ毛と付き合います」と実際に見せてくれた。新たにひげ脱毛もメニューに加わり、こちらも自身の体で検証中だ。100円で体験することができ、専用器具の販売もする。効果は森山さんを見れば一目瞭然だ。

自らの体で脱毛効果を試す森山さん

もう一つ、営業時間外は予約制、日曜と月曜、祝日は完全予約制としたことも同店の特長だ。仕事終わりの深夜、夜勤明けの早朝など、24時間対応でカットやカラー、パーマなどいつも通りのサービスを提供する。利用する側は自分の都合に合わせて予約でき、待ち時間もない。
このサービスを始めた背景には、森山さん自身が子供のころの経験がある。土日の学校行事では、理容院を営業しているため家族と過ごすことができずさみしい思いをした。「仕事帰りに自分の用事を済ませておくと、休日に時間ができる。それを家族と過ごす時間や、自分のための時間に使ってほしい」と話す。森山さんにとっても、家族と過ごすための時間を日中に確保しやすくなり、「Win Win(ウインウイン、双方に利益がある)」とのことだ。

「この店は面白い!」と知ってもらうための情報発信

森山さんは、脱毛効果や家族の近況などを週1回程度、動画で配信(YouTube)している。上下町に戻って来た約20年前からブログを始め、15年前からは毎月1回、チラシを作ってお店で配布している。2022年11月現在で188号となり、チラシを集めるために毎月来店するファンもできた。「モリヤマは面白い!」と思っていただくための情報発信だ。

動画の撮影や編集も一人でこなす

手作りのチラシでは美容の豆知識や森山家のチャレンジなどを報告

かかりつけ医やクリーニング店、行きつけの居酒屋などのように、理容院も決めた店に通い続けるケースが多い。物販の店のように、ふらっと立ち寄っていいものがなければ「また来ます」といって出ることも難しい。ところが森山さんの情報発信をチェックすると、理容院のモリヤマに行ってみたくなり、森山家の皆さんにあってみたくなる。理容院に行く理由がたくさん見つかる。実際、同店が初めての私でも、おばあちゃんが101歳を迎えられたことを知っていた。店内にご家族の写真が飾ってあるのを見て、早速、森山家の話題で盛り上がった。

ご家族の近況が分かるディスプレー

猫も人なつっこい森山家

さまざまな接点を持つモリヤマ

「母親のおなかの中にいるときからカープファンです」というほど、生粋の広島東洋カープファンの森山さん。店内のあちこちにカープグッズが飾られている。そのほか、ダーツやガンダムのプラモデルも見られる。
森山さんの趣味は多岐にわたる。かつてはモータースポーツも楽しみ、レースに出場し大会も主催していたそうだ。映画「トップガン」に憧れてパラグライダーやスカイダイビング、マリンスポーツ、乗馬に登山とチャレンジしてきた。命にかかわることもあったそうで、子どもがうまれてからは危険なチャレンジは控えている。いずれにしても多趣味をSNSで発信することで人との接点が広がり、店にさまざまなジャンルの人が集まるようになった。お客様は府中市外、県外からと広がった。同店に来る理由は散髪だけではない。
店頭の電光掲示板も見てほしい。近隣小学校の創立記念を祝うメッセージや、町内にあるブドウ園のブドウ販売のお知らせなど地元の情報が流れている。最近の上下町の様子が分かり、眺め続けてしまう。モリヤマは道行く人も楽しませている。

カープグッズが目立つ店内

店頭の電光掲示板では店のPRの他に地域の情報も発信している

待ってくれる人がいるなら、やるしかない

「お客さんには気分よく過ごして、気分よく帰ってもらいたい。そのためには自分が楽しくあることが大事」と力説。「やってみたいことはやっとかないと!」という主義を貫く。最近はソロキャンプを始めた。「はさみは持てるけど、包丁は持てない(料理ができない)」とキャンプ飯づくりを始めた。

「チャレンジ魂を忘れないおやじになる予定」と楽しいことを探し続ける森山さん

14年前から続けていることもある。「NPO法人 世界の子供にワクチンを日本委員会」への募金だ。1人の来店につきポリオワクチン1本を贈る活動で、同店はこれまでに約3万本を支援した。「モリヤマのお客さんは世界のどこかの子供たちを笑顔にする取り組みに参加していただいています」と話す。

お客様1人につきポリオワクチン1本を寄贈する活動を続けている

また児童施設に訪問し、ボランティアで子どもたちをカットしている。子どもたちはプロのカットで変身した自分に驚き、とても喜んでくれるそうだ。「僕もきって!と子供たちが殺到して、自分がまるでヒーローになったような気分です」と笑顔だ。約80人をカットしてもまったく疲れないと言う。出張サービスも受け付けている。利用は高齢者が多く、特にコロナ禍では人との接触が減らせるという点でより喜ばれた。
月1回のチラシ作成も、ネタに困ることがある。それでも、発行を楽しみにしてくれている人や集めてくれる人がいるからやめられない。「待ってくれてるんだから、やるしかないでしょ!」とうれしそうだ。
ホームページには「上下町の端っこで、ひっそりと家族で営業してます」とあるが、正しくは「にぎやかに家族で営業してます」だと思う。実際に行って確かめてほしい。