半世紀に渡り、上下で愛されてきた洋酒ケーキ。

株式会社くにひろ屋

レトロなデザインのパッケージを開けた途端、辺りに広がる甘い香り。ブランデーとラム酒を使ったシロップが滴るほどにたっぷりと浸した独特の製法が特徴の「くにひろ屋の洋酒ケーキ」を紹介します。


フランスの焼き菓子「サバラン」をベースに開発。

 半世紀にわたり、上下町で愛され続けている「くにひろ屋の洋酒ケーキ」のルーツは昭和36年まで遡る。先代の曽根利之さんが、尾道のお菓子屋さんで修行した後、フランスの焼き菓子サバランをベースに、考案したのが始まりだ。今もパッケージに印刷されているサバランの文字にその名残が見てとれる。
 しかし、この洋酒ケーキは一般的なサバランとは、趣を別にする。田舎の人に受け入れやすいようにとカステラ生地に、ラム酒とブランデーを配合した特製のシロップをたっぷりと浸した独特のスタイルが特徴だ。あまりにシロップが染みているので、子どもやドライバーは注意が必要なほど。洋菓子が今ほど一般的ではなかった当時としてはずいぶんモダンなお菓子だったが、長きに渡って上下町の人々から愛され、身近でそれでいてちょっぴり贅沢なお菓子としてこの地に定着した。

先代から受け継いだ変わらぬ味と製法。

 先代の曽根さんが高齢のため引退するということで、お隣で食料品店や仕出し業を営まれていた前原浩一社長が平成17年に看板を受け継いだ。地域で長い間、愛されて来たお菓子が無くなってしまうのは惜しいという想いがあった。「最初は素人だから、生地が焼けているのかを判断するのも難しかった。」と前原社長。曽根さんから、洋酒ケーキづくりのイロハを一から教わった。材料や製法は、先代のころから変えず同じ味を守っている。
 特にこだわっているのが、スポンジ生地のきめ細やかさだそうで、たっぷりと含ませたシロップに負けないしっかりとして、それでいて口当たりのよいスンジ生地が理想だと先代から教わった。難しいのは、同じ品質のものを作り続けることだそう。季節の変わり目は特に難しい。「材料や作り方を微調整して同じ味にするのが職人の技」だと前原社長は言う。

シロップを受け止めるきめ細かなスポンジ生地が理想

一つ一つ手作業でシロップに浸ける

上下町から全国へ。

 看板を受け継いでから、それまで上下町周辺だけで取り扱っていた販路は全国に広がり、今では広島市内をはじめ、北海道・関東・中部・関西・九州と日本全国の百貨店や高級スーパーで取り扱われるようになった。他にはない独特の味が受けていると言う。今でも色々なところから引き合いが引っ切り無しにあるそうだが、生産量が限られるため断らざるを得ないことも多いそうだ。
 平成28年、地元新聞社主催の「新!広島みやげグランプリ」で一般投票賞を受賞したのをきっかけに広島駅でも取り扱いが始まった。カープ人気も手伝って試合のある日にはよく売れるという。今後は広島のお土産として育てていきたいという想いも強いという。平成29年7月には、自社工場を新設し生産体制を増強した。今までの1.5倍の生産量を見込む。

上下の歴史ある街並みを格子で表現した新工場

工場にはファンが遠方から訪れることもあるという

故郷の良さを知ってもらうきっかけに。

 今後の展開として、新商品の開発を視野に入れている。広島県が特産品として売り出している広島レモンを使った商品や、有名菓子店のシェフとのコラボ商品などを検討しているそう。一方で会社を大きくすることは目標ではないという。「大きくしたら、大きくしただけ人間関係もいろいろあるし、目の行き届かないことや、想いが届かないことも増える。大きくならなくても安定して経営ができれば良い」と前原社長。家族的なあたたかい雰囲気の工場では、社員全員で力を合わせて、全国から寄せられる注文に応えている。
 作り手としてなにより嬉しいのは、「美味しいお菓子だね。」と言ってもらえることだ。洋酒ケーキをきっかけに上下町のことを知ってもらい、上下町に来た人が、自分の故郷をいい所だねと褒めてくれるのもうれしいという。

工場裏には美しい里山風景がひろがる